パトリック・ムラトグルーはフランス人のプロテニスコーチ。南仏にアカデミーを構え、トッププロからキッズまでを指導し、多数のレッスン動画をYouTubeやインスタにアップしている。
週末プレーヤーはコート上でコーチから学べる時間は限られるので、動画はよい学びの機会。彼はセリーナやルーネの専属でもあったトップコーチだが、語り口が軽妙、かつ短い動画を大量配信していて、自分の気になる点を学びやすい。色々手を出しても惑うので、動画勉強はムラトグルー先生一択で行こうと思う。
テニスマスタークラスという9本の動画シリーズは、試合前、特にシングルスで勝つポイントの学び直しに良い。各動画のポイントを日本語でまとめておく。
相手のサーブを破壊せよ
先生曰く「サーブはいまや2番目に大切なスキル。1番はリターンだ。返せないサーブはない。現代最強のプレーヤー、ナダル、ジョコビッチ、シフォンテク、みなサーブもいいがリターンは最高だ」。ハードヒットするスキルがあってもなくても、狙いどころを理解して継続するだけでポイントにつながる。
- スタンスはラケット一本分開く。
- 構えはフォアとバックの真ん中に。どちらに来るかわからないのだから。引きやすいよう15cmほど体から離して構える。
- 前後の立ち位置は相手のサービスの威力に合わせ、腰を落として低く構える。スプリットステップは相手がサーブを打つ直前に着地を。打球の方向を見てラケットを引く。
- 左右の立ち位置は、相手が打つ左右のベストサーブの真ん中に立つ。
- スイングは、ファーストサーブ時は速くて準備時間がないので、ボレーのようにコンパクトに打つ。ラケットを引くのは肩で体の横まで。テイクバックしない。
- ヒットする際は弾かない。ガットで長くとらえてコントロールするために、腕に加えて足でボールを運ぶ。
- グリップは優しく、手首はコック。
- 狙いは、相手コートのセンター。サービスラインよりも深く、できれば足元近くに返す。サーバーは打ち返しにくくなるのでサーブのアドバンテージを奪ってペースを握れる。
- 相手のサーブを読み、立ち位置を変える。
- セカンドは攻撃する。スプリットステップで中に入る。センターに深く、ダウンザラインに、ショートクロスに、攻める。
- キックサーブには、自分が打ちやすい打点で攻める。スライスでライジングを攻めるのもあり。
- サーフェスがオムニなら、滑るのでラケットヘッドを低めに構える。
ネットに忍びよれ
先生曰く「相手のストロークに押される、ムーンボールに攻めあぐねるなら、ネットに忍び寄れ。低リスクで高い決定力が得られるし、相手にはプレッシャーをかけられる」。繰り返し語るのはスプリットステップの重要性。コンマ数秒でも止まって見る。必ずスプリットステップを踏み、そしてサービスラインの内側まで詰めてボレーを打つ。
- 忍び寄りは、打ちながら詰めるアプローチショットとは違う。打った打球が、相手をディフェンシブにすると判断したら、詰める。
- 相手に深く、左右に動かす球が打てたとき、相手は走ってボールを追うのでディフェンシブな球しか返せなくなる。さらに、目がボールを追って自分から離れる。
- いくと決めたら、まず走る。そしてスプリットステップする。そしてまた走る。
- スプリットステップなしでは、どちらに来るか分からない球に対応できない。コンマ何秒か、スプリットステップして返球の向きを見て、また詰める。
- スプリットステップをする場所は、サービスラインとベースラインの間では後ろすぎる。パスで抜かれやすいし、ボレーも難しくなる。スプリットステップ後にもう1、2歩詰めて、サービスラインの内側でボレーできるところまで忍び寄る。そうでなければ行かない。サービスラインの内側なら簡単に決められる。
- ボールを打った方に走る。相手は打つコースが限定される。
- 相手の球が浮いて来たら、その場で余裕を持って決める。沈んで来たら、スプリットステップ後にダッシュで詰める。オープンコートに決めやすくなる。
- 相手がスライスを打って来る場合は、ネットに忍び寄るチャンス。
自分の利き目を活かせ
先生曰く「誰にも利き手があるように、全ての人に利き目がある。スポーツには大きな影響があるのに、コーチでも知らない人が多い。フェデラーとズベレフは、利き手と利き目の組み合わせが違う。すると得意なショットも正しいフォームも変わる」。目から鱗だが、言われてみると、自分の得意不得意が腑に落ちたりする。多いパターンである利き腕、利き目ともに右利きの場合のアドバイスをピックアップ。
- 判定方法:腕を伸ばした先の両手で三角形を作り、両目で見て中心に合わせたものが、右目を閉じたときに大きくずれたら、右が利き目。
- 利き腕、利き目、両右利きの場合:基本的にはバックハンド向きである。肩をしっかり入れても、利き目が手前に来るのでネット、ボールを見続けることができる。フォアハンドとサーブでは、顔をネットに向けることが必要になる。
- フォアハンド:オープン気味スタンスで顔をネットに向け続ける。打点が前寄りとなり押せる距離が小さくなるので、リストを使ってしっかり回転をかける。
- バックハンド:しっかり肩を入れても利き目でネットを見続けられる。肩が入って入れば後ろ寄りの打点から、腕で長くボールを押すことができる。
- サーブ:利き目が右の場合、トスを上げる腕が横に流れると顔が横向きになり、位置関係をつかみにくくなる。トスを上げる腕を前方に出し、顔を常に前方に向けてヒットすることで安定が増す。
最高のスライスの使い方
先生曰く「まず、ロジャーの真似をしてはダメ。あれは彼にしかできない。我々は、打ちたい方向にしっかりフォロースルーをしよう」。師は、スライスはディフェンスではなくリズムを変えるために使うことを勧める。そのためにはドライブも打てるようにならないと。
- 前に動く:ネットに45度の角度で右足を踏み込み、押していく。我々はロジャーのように手元で切るだけでは押せないので、打ちたい方向にフォロースルーをしっかり行う。
- ラケットヘッド:打球の高さに合わせてヘッドを立てる。つまり、打球が高ければ高く、低ければ低く、構える必要がある。
- 肘と手首を曲げる:肘をしっかり曲げ、リストもしっかりコックする。
- スイング:腕を上から下へ。そのままリストも使って振り切る。合わせるだけではチャンスボールしか返せない。
- 使い方:リズムを変えるために使う。コースを変えるために使う。逆クロスで攻められたらバックハンドスライスでダウンザラインにコースを変え、次で攻め返す。
エキサイティングな片手バックハンド
先生曰く「片手バックハンドはカッコいい」。両手バックが主流だと認めつつ、この美しいショットを広めたい、という推しが強い。スライスバックハンドの人は、切り替えもしやすいので価値は大。
- 右利きなら、左手でラケットヘッドを高く引く。右手の肘をしっかり曲げ、ラケットを上から下に回転させる勢いでトップスピンをかける。
- 利き目が右の場合、右足をしっかり踏み込み、引きつけて面で長くとらえて押す。
- グリップエンドをネット側に向けて、裏拳を放つようにスナップを効かせる。
- 左手は右手と逆に大きく後方に伸ばす。そうすることで体が開かず、コントロールが効くようになる。
- 早く準備して、右足を踏み込んで打てるタイミングを確保することが大切。
戦術の基本のキ
先生曰く「これらのルールは普遍的で、全プレーヤーに有効だ」。シングルスで勝つ戦術の基本。ダブルス版も欲しい。
- クロスでプレイ:動かされる距離が減る。フォアでもバックでも。クロスで打ったら、片方のサイドで待てばいい。相手が打ってこれる範囲の真ん中は、センターではない。ショートクロスもあるから。
- 深くプレイ:出来るだけ深く打ち合うことは強力なディフェンスになる。ただしサイドライン寄りに浅く来たら、ショートアングルで相手をコートから追い出すチャンス。
- センターでプレイしない:必ず相手が打ってこれる範囲の真ん中で待つ。クロスや逆クロスに返したら、センターが相手の返球可能なスペースの真ん中にはならない。
- 短く打つなら:必ず相手に低く打たせる。滑るスライスは有効。
もちろんクロスだけでは終わらない。相手を動かすのがテニス。ダウンザラインを打つときについても教えよう。
- 相手を動かしたいとき:多くのプレイヤーは、構えて打つより動きながら打つ方が安定しない。動きが遅い相手なら、ダウンザライン含めてどんどんコースを変えるべき。
- 相手のフォアが強くて方向を変えたいとき:ウィナーを取るためではなく、方向を変えるために、スピンのかかった高く深い球をダウンザラインに打つ。高く深い球で時間を確保し、アドサイド寄りにポジションを変えて次の球で攻撃する。もしくは、バックハンドスライスをダウンザラインに打ち、相手が打ち込めなくなった球を攻撃する。
- 仕留めるとき:相手をサイドに追い出したら、出来たオープンコートに、早いテンポでダウンザラインに決める。しっかり深い球を打って返球が浅くなったら、ダウンザラインで攻撃するか、ネットで仕留める。
スマッシュは重要ショット
先生曰く「鍵となるショットなのに、あまり語られない、練習しないショット。それがスマッシュ」。ダブルスだとさらに重要かも。
- ポジション:左手でボールを指差し、伸ばした腕とボールが同じ線になるところまでしっかり下がる。ありがちな失敗は、下がりが遅く、下がりきれずバランスを崩すこと。早く下がりきって、一歩前に踏み込んで打つぐらいがいい。
- 上半身:サーブのトロフィーポジションからスタート。
- 下半身:体重は必ず後ろから前に。下がりながら打つときはバランスが大事。しっかり右足でジャンプし、バランスよく着地できるように。
- どこに打つか:浅かったら、手前に叩きつける。深かったら、深めに打ち込む。
- いつ打つか:めっちゃ高いロブなら、落として打つ。トップスピンロブなら、落とさず打つ。グラウンドスマッシュは、大きく2歩ほど下がって、踏み込んで打つ。
- ベースラインから打つ:難しいからファーストサーブみたいに打たない。ネットしないよう高さを保ち、スライスをしっかりかけて打つ。
サーブ&ボレー
先生曰く「一番大事なポイントで打つショット、それがサーブ&ボレー。ゲームスタイルとしてこそ主流でなくなったが、トッププロもここぞという場面では多用する。週末プレーヤーなら、引き続き必殺技だ」。
- どんなサーブを打つか:ビッグサーバーでないなら、ネットに詰める時間を確保するべく、スライスかキックサーブを打つ。
- どこに打つか:リターナーが詰めているときは、スライスのボディが有効。その上で相手にコースを読ませないことが大事。相手がどこが苦手かを把握することも当然大切。
- スピリットステップ:ファーストボレーはサービスラインの内側で打つべし。そのため、スプリットステップは、それができるところまで走ることが大事。そして必ずコンマ何秒か、止まる。相手のリターンの方向を見て、どちらに詰めるか決める。そしてファーストボレーを打つ。
- ネットダッシュ:サーブの方向に詰める。相手が打ってくる可能性のあるスペースの真ん中に立つため。Tに打ったら、Tに詰める。サイドに打ったら、サイドに詰める。
- ファーストボレー:スプリットステップでコンマ何秒か止まり、動く方向を決めて詰める。ファーストボレーを打つそのときは1、2歩詰めながら動いていること。それが勢いを与える。自分の体の前で捉え、深く打つ。
- セカンドボレー:さらにネットに詰め、高い位置でショートクロスに打つのが理想。
- いつ使う:プレッシャーがかかるときに使う。考えている暇がなくなるから。
メンタルの鍛え方
先生曰く「振り返って、勝てたと思うかい?勝つべきたったと思うべきだ」。勝つには本当にメンタルが大事で、テニスでメンタルを良好に保つにはどうするべきか。試合前と試合中の準備でそれが可能になる。
- 試合前:自分でコントロール可能で、試合後に成長を感じられるゴールを、当日の朝に最大3つ立てる。勝つこと、いいゲームをすること、これらは自分だけではコントロールできない。必ず深く打つ、というゴールはコントロールが不可能だ。しかし、相手の打球がサービスラインより浅くなったら必ずネットに詰める、というゴールはコントロール可能だ。ゴールはもちろんポジティブなものであるべき。そしてゴールは、達成したら勝てる可能性が高まるものであるとともに、試合後に成長したと感じられるものであるべきだ。ゴールを前の日から考えていると疲れちゃうので、当日の朝に考える。そして最大3つまですべきだ。それ以上はやり切れない。
- 試合中:テニスではインプレーの時間は20%もない。つまり、80%の時間は、いろいろ考えてしまう時間だ。この時に、自分ではコントロールできないことを考えていたら、ストレスを感じるのは当たり前だろう。ハンドルを握っていない乗り物に乗って猛スピードで走っているようなものだ。自分がコントロールできることに集中すれば、正しい精神状態になれる。朝に立てたゴールをメモにして、試合中に見返すのもいいだろう。