困難や苦労があるから、いろいろ考えたり、想像力が広がり、よい人間関係を築く力がつく。幸せな人生は、よい人間関係によって築かれる。
幸せな人生は喜びにあふれている・・・けれど、試練の連続だ。愛も多いが苦しみも多い。それに、幸せな人生とは偶然の賜物ではない。幸せな人生とは、時間をかけて展開していく一つのプロセスだ。波乱、安らぎ、楽しさ、重荷、苦闘、達成、挫折、飛躍、それに恐ろしい転落がつきものだ。そしてもちろん、幸せな人生も必ず死を迎えて終わる。
陳腐な話に聞こえるのは百も承知だ。
それでもはっきり言おう。幸せな人生は楽な人生ではない。完璧な人生を送り方法など存在しないし、あったとしたら、ろくなものではない。
なぜかって?まさに困難や苦労こそが、豊かな人生=幸せな人生=をもたらすからだ。
ハーバード成人発達研究は、人々の健康と幸福を維持する要因を解き明かすため、膨大な質問と様々な測定方法を活用し、同じ被験者群を84年間にわたって追跡調査してきた。すると身体の健康、心の健康、長寿との関連性において、際立って決定的な因子が浮かび上がってきた。それは、人々の想像に反し、社会的成功や運動週間、健康的な食生活ではなかった。誤解しないでいただきたいが、これらも(とても)重要だ。だが、、明らかに絶えることなく重要性を発揮している因子が一つだけあった。
よい人間関係だ。
実のところ、よい人間関係は非常に重要だ。84年にわたる本研究や他のさまざまな研究の知見をもとに、生きるためのたった一つの原則、人生において投資すべきたった一つのことを集約すると、次のようになる。
健康で幸せな生活を送るには、よい人間関係が必要だ。以上。
どの研究の知見も、人のつながりの重要性を示している。家族や友人、地域社会とのつながりが強い人のほうが、そうでない人よりも幸せで、肉体的にも健康だ。自分が望む以上に孤立している人は、他者とのつながりを感じている人よりも早い時期から健康状態が悪化する。
実際、愛情が乏しく諍いの多い結婚は、離婚より健康に悪影響を与えることもわかっている。
むしろ、大事なのは人間関係の質だ。単純に言えば、心の通う人間関係の中で生きることが、心と身体を守ってくれる。
つまり、重要なのは守られているという感覚だ。人生は楽ではない。最凶モードの試練に見舞われることもある。苦難や老いのつらさから人を守ってくれるのは、心が通い合う人間関係だ。
「人間には心の通う関係が必要不可欠だ」という言葉はきれいごとではない。厳然たる事実だ。数々の科学研究が繰り返し伝えてきた事実がある=人言には栄養が必要で、運動が必要で、目標が必要で、そして仲間が必要なのだ。
人は人間関係がもたらすメリットを予測するのがとくに下手だ。人間関係は面倒で厄介だし、何が起こるか予測できないのは事実だ。だから一人でいることを好む人は多い。単純に孤独を求めているわけではない。他者と関わることで起こりうる面倒を避けたいのだ。だが、面倒事を過大評価し、人とのつながりがもたらすメリットを過小評価するのが人間だ。これは、人間の意思決定全般に通じる特徴だ。つまり、潜在コストを重視し、メリットを小さく見積もってしまうのだ。
幸せな人生には、成長と変化が欠かせない。人は、年をとっていけば自然に変化し、成長するわけではない。経験し、耐え、行動することのすべてが成長の軌跡を左右する。成長過程において最も重要なのは、人間関係だ。自分の意欲をかきたて、人生を豊かにしてくれるのは、他者という存在だ。新たな人間関係が始まれば、新たな期待、新たなトラブル、新たな課題が生じるが、そのとき「準備が整っている」ことはまずない。例えば、準備が完璧に整った状態で親になる人はまずいない。しかし、親になり、小さな子どもの責任を引き受けることで親になる準備が整っていく。目の前の状況が人をつくる。人間関係やライフステージが変わるたび、やらねばならないことに対応しながら生きていくのが人であり、その過程において人は変化する。それが人の成長というものだ。
他者と過ごす時間という単純な尺度が非常に重要であることがわかった。というのも、この尺度は日々の幸福とはっきりと結びついていたからだ。だれかと一緒に過ごす時間が多かった日のほうが幸福感も高かった。とくに、パートナーと過ごす時間が長いほど、幸福度が高かった。これは全ての夫婦にも当てはまっていたが、とりわけ仲睦まじい夫婦に顕著だった。
高齢者はたいていそうだが、被験者の男女も身体の痛みや健康問題に日々悩まされていた。当然ながら、身体の痛みが強い日は気分も落ち込んでいた。だが、仲睦まじい夫婦は、気分の浮き沈みがいくぶん穏やかだった。身体の痛みが強い日でも、幸福度があまり下がっていなかったのだ。幸福な結婚生活のおかげで、痛みの強い日も彼らの心は守られていた。
直感でも理解できることかもしれないが、この研究結果から、非常に強力でシンプルなメッセージが見出せる。他者との交流の頻度と質こそ、幸福の二大予測因子である。
時間と注意は後から補充することができない。時間と注意こそ人生そのものだ。時間と注意を相手に差し出すとき、私たちはそれらを単に「費やしたり、払ったり」しているわけではない。自分の命を相手に与えている。