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『習近平政権の権力構造』を読んでイノベーションの限界と対台湾工作に思いをはせる

中国国家主席を3期連続で務める習近平氏。彼が頭脳明晰で強い信念を持つ人物であることはよく理解できた。国民の「共同富裕」の実現を本気で目指し、権力欲の前に「共産主義」を心から信奉する人のようだ。だから余計に、彼がリードする中国は、国際情勢に大きな不安をもたらし、独裁体制で突き進むことになる。

本書を読んで再認識したのが、台湾情勢はこれからの12年が山場であり、ウクライナ侵攻のような戦争でなくとも激しい攻防があるだろうこと。

本書を読んで想像したのが、どれだけ優秀な独裁者が率いようと、今のままの中国だと、イノベーションと経済成長が止まってしまうだろうことだ。

前者は本書に詳しく書かれている通りで、習近平にとっての台湾統一は、毛沢東を超える、共産党の正当性を証明するための必達事項。必達なので、大きな犠牲を払ってでも必ず達成しなくてはならない。ただし武力侵攻とそれに続く台湾の都市や人々の制圧、占領は難易度が高すぎるので、「平和的な手法」で統一を果たしたい。硬軟取り混ぜた外交攻勢、デジタルと人海戦術を駆使した世論操作などが激しさを増しそうだ。

台湾人の側では、戦争は避けたいが現状維持を望む、台湾人アイデンティティ重視派が増えているそうなので、つばぜり合いは激しさを増していくだろう。

日本の自衛隊戦力、防衛費の配分も、台湾有事抑止、サイバー攻撃阻止といった分野に重点的に充てることが、平和維持につながるのだろうなと思う。

後者については、人類史を振り返れば、言葉、文字からインターネットまで、コミュニケーション技術の進化がイノベーションを牽引してきたことを考えると、権威主義体制の中国、多様な意見を許容できない習近平体制では、世界のイノベーションをリードすることはもちろん、その発展を十分に享受することも難しくなっていくだろうと感じた。

最近は権威主義的な国家の人口やGDPが、自由主義的な国家の合計を上回りつつあるとの統計もあるが、イノベーションの進み方で構図は大きく変わるはずだ。権威主義国家同士でもイノベーションの相互作用は起こしうるだろうが、すでに超大国である中国の成長に十分なインパクトを提供できる友好国があるのかは疑問だ。例えばインドが中国のデジタルイノベーションのために本気で協力することはないだろう。

歴史上、中国は多くのイノベーションを実現してきたが、その広大な国内や勢力範囲で、多様な人材や知見を取り交わしてきたことが大きく寄与していたと思う。14億人は十分すぎる規模だが、ひとつの思想しか認められない集団内では、イノベーションが起きる速度も低下する。もはや日本もイノベーションを牽引する国とは言い難いが、新たな思想を取り込んだり、イノベーションを享受することは容易なはずだ。逆にそうでないと、我々も取り残されてしまうことを、肝に命じておきたい。