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制度が築く経済:大国の興亡と成長の三つの柱

古代ローマがその絶頂期から衰退へと転じた瞬間とはいつで、何があったか?そんな瞬間があるとすれば、私たちは歴史的な大事件を思い浮かべる。蛮族の襲来によるローマ陥落のような。しかし著者らは、そのような大事件は衰退の結果でしかなく、原因は別だと言う。

著者のグレン・ハバード氏は、世界的に有名な経済学者。彼の経済学入門書はアメリカの多くの大学で教科書となっている。本書では、著者らが専門知識を活かし、古代ローマから現代アメリカまでの大国の経済動向を解析し、明確なメッセージを発信している。「経済成長の基盤は制度であり、制度で全てが説明できる」と。

経済成長には3つの柱があること。強固で健康な制度と継続的な改善こそが国家の経済的成長を保証すること。そして大国の衰退は、自国の停滞が内的な原因によることを否定し、過度な中央集権化が進む、将来を犠牲にして現在浪費する、という決まったパターンで起きること。

これらを大国の興亡をケーススタディに解説していく本書は、歴史と経済を学ぶ者にはたまらなくエキサイティングだ。

経済成長モデル3つの柱

第一はスミス型、規模による成長。販路を拡大や、生産規模を拡大して効率のいい分業を導入する。第二はソロー型、投資による成長。従業員の教育や、生産効率のいい機械の導入など。第三はシューペンター型、革新による成長。自動化を可能にする道具を発明したり、顧客が喜ぶ新サービスを思いついたり。これらを促進できるかは制度にかかっている。制度の発展が停滞した時期、経済の発展も停滞した。

NBAに見る制度の重要性

バスケットボールが長身者によるゴール前でのブロックとシュートだけのつまらない競技と化すのを防いだのは、身長規制ではなく、新しい制度、ルールだった。3ポイントシュートの、導入で遠くからの得点が増え、ディフェンスが分散したことでインに切り込む余地ができた。長身だけでなく、シュート精度や身体能力などが物を言うようになり、マイケル・ジョーダンというヒーローが生まれ、人気が爆発した。

大国衰退のパターン

自国の停滞が内的要因によることを否定する=自国制度の停滞に目を背ける。

中央集権化が進む=革新を生む多様性を失う。規制で得をする層が全体成長を損なう。

将来を犠牲にして現在を浪費する=権力者のいまのために問題を先送りして手遅れにする。

ローマ帝国の衰退理由

ローマ帝国は、1)ハドリアヌス帝が拡大政策をやめたことで、経済規模の拡大や労働力の専門化による成長が止まり、一方で民間が担うべき娯楽の提供などによる過剰福祉国家路線で財政が不均衡になり、2)銀貨に含まれる銀の量を減らして財政不均衡を乗り切ろうとして、通貨が信用を失って貨幣経済から物々交換に逆戻りして経済が縮小し、3)軍隊が、国家の安全から経済の発展まですべてを犠牲にして自らの収入と権力最大化に努め、内部から崩壊した。外敵の侵入は結果であり、原因ではない。

成長の大敵 レントシーキング

レントシーキングとは、新しい価値を作り出すことなく、既存の権利から利益を得ること。特定の利益集団が補助金、特権的立場や規制を通じて経済的利益を求める行為は、社会全体の効率を下げ、資源の不適切な配分を引き起こす。宗教的な命令はたいてい経済的なレントシーキングである。

日本と中国における成長の壁

日本が欧米という成長モデルを真似して追いつくことを目指した明治維新後、第二次大戦後は、向かうべき方向性が明確であり、中央集権で規模と投資を拡大することは効率が良かった。文化大革命後の中国も同じ。そこからさらに成長するには、中央集権や規制を減らして革新を拡大することが欠かせない。

アメリカ「合衆国」の強み

アメリカは憲法で州の権利が強力に守られている。各州は独自の政策を打ち出しやすいし、どの政策が時代にあって効果的かの比較もなされやすいので、各州は切磋琢磨し、制度が発展しやすい。属州や都市に自治の権利を認め、属州民であっても帝国内で自由を保証する市民権を広く付与したローマ帝国でも制度は発展しやすかった。一方で日本の地方自治は政策も財政も国がコントロールする中央集権型のため、制度が発展しにくい。大英帝国は植民地を大英帝国の一部とせず、あくまで植民地として下に置いたので一緒に発展することができなかった。

アメリカ二大政党制が持つチャレンジ

アメリカ二大政党は「政治的な囚人のジレンマ」を抱える。民主党は財政支出拡大を維持したい。共和党は低い税率を維持したい。財政均衡のために責任ある選択をするべきだが、財政支出削減と増税は国民に不人気。議員のインセンティブは再選されることで、各選挙区は両党の優劣がほぼ固まっているので、予備選で党の代表に再選されることが最優先に。結果、民主党議員は税率を上げないのは共和党のせいにして財政支出拡大を維持、共和党議員は財政支出が減らないのは民主党のせいにして低い税率を維持。財政不均衡は続く。

 

成長の3つの柱、規模による成長、投資による成長、革新による成長。これらを適切に促す制度の確立。本当の問題から目を背けず挑戦し、革新をもたらす多様性を育み、将来を見越して投資する。この本から学んだことを私たちの生活や組織に適用することで、私たちは日本の明るい未来を築く手助けができるはずだ。