花も実もある楽しい読書

人生とテニスに役立つ本

大人も目から鱗が落ちる『13歳からの地政学』

子供向けのようなタイトルだけれど読み応えあり。子供でもわかる例を用いて、知ってるけれど、分かってないことを腹落ちさせてくれました。本書からそんな4つのエピソードをご紹介します。

驚くべき事実:日本は実は世界第4位の体積!深海の秘密とその利点

日本は島国でありながら、1.2億人を抱える国土を持ち、渡りにくい日本海に囲まれて防衛に優れ、豊かな海産物にも恵まれています。しかしその地政学的特徴に加え、意外な事実があることをご存知でしょうか?日本近海のその深さから、体積で世界第4位という驚きのデータがあります。

この深海がもたらす現状のメリットは、原子力潜水艦が隠れやすく、敵からの攻撃を避けられることです。将来的には、海洋資源の活用や二酸化炭素の深海貯蔵など、さまざまな資産になる可能性があります。

核兵器は最強の力を持ちますが、陸上施設は監視されやすく、破壊のリスクも高い。戦争に勝利するために戦術核兵器を活用する際には、原子力潜水艦の発射能力と深海の存在が重要な要素となります。中国が南シナ海を欲しがる理由の一つに、浅い黄海では潜水艦が目立ってしまうことが挙げられます。

民主主義の真の魅力:平和的なリーダー交代の力

ウィンストン・チャーチルの有名な言葉によれば、「民主主義は最悪の政治形態だが、他に試みられたあらゆる形態を除けば最善である」とされています。しかし、民主主義が具体的にどのように優れているのか、理解するのは難しいですよね。

本書では、民主主義の真の利点が「殺さずにリーダーを変えられること」であると説明されています。選挙のない国では、権力の交代が暴動や処刑といった暴力行為を伴うことが多いのです。

民主主義でない国やうまく機能していない国でも、国民が納得している限り、大きな問題は発生しにくいです。しかし、納得感が失われると不満が高まり、権力者は降ろされることを恐れて戦争を起こしたり、反抗勢力を弾圧したりすることがあります。

民主主義の国では、選挙を通じてリーダーを変えることができます。確かに、選挙によって不適切な代表が選ばれたり、過半数の国民が賛同していなくても当選することがあったり、変化が遅かったりと問題点は多いです。しかし、権力者を平和的に交代させる仕組みがあることは、社会の安定と平和につながるのです。

アフリカの貧困の根源:資源の流出と人工的な国境

アフリカの1人あたりGDPは、日本の20分の1にも満たない。ダイヤモンドやレアアースといった資源が豊富でありながら、アフリカはなぜ貧しいのでしょうか?その答えは、アフリカのお金が他の国に流れているからです。

コモディティ商社の本「THE WORLD FOR SALE」を読むと、この問題がより明確になります。かつて中東の石油が欧米企業に吸い取られていたように、アフリカでも資源の流出が続いていました。コモディティ商社は政治家に賄賂を提供し、格安で資源を取得し巨額の利益を得ていました。その結果、利益が国外に流出し、教育や産業振興に投資されず、アフリカは独立後も貧困が続いているのです。

さらに、欧米が植民地時代に引いた人工的な国境線が、異なる民族の対立を引き起こし、権力者は短期的な利益を追求する傾向が強まりました。この民族間の意識の「差」が、無駄を生み出し、第三者に利用されることも多くあります。

しかし、最近ではコモディティ商社が株式会社化し、企業活動やお金の流れを開示するようになり、不公正な取引が続けられることが難しくなっています。アフリカの国々が国内の統合を果たすことができれば、中東のような発展の時期が来るかもしれません。

対戦国間の国民感情:過去の傷を超えて

敗戦後の日本は、アメリカによる思想教育もあったにしろ、敗戦に導いた指導層や世論を誘導してきたマスコミにすれば、国民がみな天災と思って忘れてくれた方が、悪者にならなくて済むので間違いなく都合がよかったんですよね。

世界中に目を向ければ、第二次世界大戦前に帝国だった国の数よりも、植民地だった国の数の方が圧倒的に多い。日本からは直接の被害を受けていなくても、植民地化されたという記憶を共有して共感しうる国々は多いのですよね。

いじめた側はすぐ忘れるが、いじめられた側は一生忘れない。この例えは、日米と日韓の国民感情の違いを理解する上で非常にわかりやすいものです。国民感情は、天災として忘れるか、恨みを持続させるか。この違いは国民性だけではなく、その国が抱える地政学上の都合によっても変わるものです。

日本は敗戦後、アメリカによる思想教育もあったにしろ、指導層やマスコミは国民に天災として敗戦を忘れさせることで、自らの責任を逃れようとしました。それが敗戦した帝国であった日本の選択でしたが、世界では帝国に植民地されていた国の方が多く、彼らは忘れるどころか植民地化の記憶を共有し、共感し合うことも可能だということにも気づかなくてはなりません。

理屈だけでは筋が通っていても、内向きに固執せず、様々な視点から物事を見ることが大切です。国家間の信頼を築き、互いにメリットを享受できる関係を築くためには、この視点の広がりが重要です。