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『日本の医療の不都合な真実 コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側』非常に深刻な医療費の使われ方と逆説的な希望

医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏は、現場とデータの両方を見て、コロナ禍にある日本医療の現状をこう例えます。

最強の戦力を保持しているにもかかわらず、それらを適正に配置する指揮命令系統を失ってしまったので誰も動けない。しかし敵はもう足元まで迫ってきている。

この文章を読んだとき、行政が指導力を発揮しさえすれば、医療崩壊は防げるのではないか、と期待もしました。しかし、大阪府では2021年4月13日に、重症病床確保数224床に対して、重症者数が233人だと、ニュースになりました。

大阪府には10.4万を超える病院病床があります。2020年4月7日に初の緊急事態宣言が発令されてから1年間、吉村知事は対策に尽力してきたと思うのですが、1年かけて、コロナ重症患者用の病床は、全体の0.2%しか確保できていないということです。

日本は病床はあるが医師が足りていないとも言われます。確かに人口あたり病床数はアメリカの3倍あるのに対して、医師数は1.08倍とほぼ同等です。しかし人口あたりコロナ死者数は、2021年4月時点でアメリカの23分の1です。

医療崩壊寸前だ、と訴えるコロナ病棟の現場の悲鳴は事実だと思います。その原因は、1年やそこらでは軌道修正がきかないぐらい、日本の医療コストの配分が非効率だからだと理解しました。

原因は大きく2つなんでしょうね。

  1. 病院は、診療報酬の現制度により、入院病床を埋めるべく病人を作り、生活習慣病患者を毎月病院に呼ぶ。これで経営を回しているので、病床に空きはなく医師は忙しい。
  2. 国民は、健康保険の現制度により、75歳以上で1割、現役世代でも3割しか負担しないので、必要以上に病院へ行く。認知症患者や要介護者のケアも医療に頼るようになる。

医療サービスを提供する病院側、サービスを受ける国民側、双方のやり方や意識を変えるための制度変更、マーケットデザインが欠かせませんが、危機の1年間で進んだ制度改正が特措法ぐらい、市民生活の自粛要請のバリエーションが2種類になっただけ、と考えると、日本の将来が不安になってしまいます。

市区町村レベルでは、地域医療リソースを有効活用して医療キャパシティを確保している例も耳にします。東京都墨田区では保健所長のリーダーシップのもと、基幹病院で回復した患者は民間10病院に転院させる仕組みを作り、コロナ下でも入院待ち患者ゼロを実現しています。

日本の医療費は44兆円にのぼります。非常に逆説的ですが、この莫大な規模の予算にこれほどの無駄があるなら、日本の将来への投資余力はまだある、と捉えることもできます。今、我々は逃してはならない、変わる機会にあるのかもしれません。