花も実もある楽しい読書

人生とテニスに役立つ本

大企業の中でイノベーションを起こすには。ケヴィン・ケリーが語る『5000日後の世界』への心構え

新書なので、筆者ならではの、広い知見にもとづく未来予測の深みやら、テクノロジーの哲学的な捉え方などは、割とあっさりしています。そのあたりは『インターネットの次にくるもの』が詳しいかと。

個人的に響いたのは、大企業がイノベーションを起こせない理由と、その中で自分がイノベーションを起こすためにできることに関する提案でした。

大企業はイノベーション起こせない?

新しい発見のためには、最適化とは反対のことをしなくてはなりません。失敗する可能性が高く、儲けの少ない、小さな市場へと方向転換をしないといけないのです。どう見ても、ビジネス的には悪い環境です。

大企業には失うものが大きすぎる、社内文化や方針と違いすぎるというのですが、大企業に身を置き、アナログ製品である日用品の販促をデジタルでパーソナライズしようと挑んでいる立場からすると、やりようはあるなと。

ひとつは戦略をかかげてトップに賛同を得ておくこと。データを活用して一人ひとりのニーズにあわせてアプローチし、新しいショッパーを獲得したり、高付加価値製品を使ってもらう。戦略を出来るだけ明確にし、シャープにし続けることで、社内の方向性合意は得やすくなる。

次に各部門長が必要としている解決策につなげること。方向性に合意を得ることと予算を得ることには大きな差がある。イノベーションが合意した戦略に沿いつつ、直面しているビジネス課題の解決に役立つと感じてこそ、予算を持っている各部門がお金を出そうとなる。

そして初期段階のイノベーションを目先の売上につなげること。単年度予算で動く大企業で、数年先にものになるかも、というプロジェクトに継続的投資を得るのは難しい。段階的に進んで行くイノベーションの初期の成果物を、スケールは小さくとも目先のビジネスに活用する。

大企業の中でイノベーションを目指す身としては、本流と違うゆえの不安を感じるときもありますが、著者のメッセージを読んで、現在の最適解と違うことを目指す過程で直面する当然の不安だったと再認識させてくれました。見据える先は大きく、自信を持とう。

書くことでイノベーションへの考えをまとめる

一番役立ったのは、実際に書いてみることでした。書くことは考えるための方法の一つなんです。書いてみるまで自分が何を考えているのかがはっきりしませんが、何かを書いてみると、まるで自分がわかっていなかったことに気づくのです。

自分がわかっていないことは書けない。書けないから考えがまとまっていないことに気づき、足りない部分を考える。不足していたパーツが埋まって、まとまった考えが書けるようになる。書き物になると、考えが他者に共有可能になる。共有すると、足りない点を補ってもらえたり、偏りを正してもらえる。こうやってイノベーションが進んでいくことが実感できました。どんどん書いて、描いていこう。

問い続けることがイノベーションにつながる

今後は、「常に問い続ける」という一種の練習や習慣が、人間にとって最も基本的であり最も価値のある活動になっていくだろうと思います。すでに答えがわかっていることは機械に聞けばいい。人の価値があるとすれば、答えのわからない問いに対して、「こうだったらどうなのか」とか、「これはどうなんだろうか」と考え続けていくことです。正しいことを問うていく、ということに価値が生まれます。それがイノベーションと呼ばれるものだし、探索やサイエンス、創造性だったりするわけです。

イシューから始めよ、ですね。どんな価値がショッパーに求められているのか。それを常に問い続け、考え続けていくことが人間の仕事。これが自分の仕事だと肝に命じて、イノベーションを形にしよう。