「DXについて高次で思索を深めたい人は、経産省の誇る知性、西山圭太前経産省局長が書いたこの一冊を」との安宅和人さんの推薦を見て手に取りました。読み進めてみると、著者はなんという勉強家で頭のいい人かと感嘆…
大きな変化を起こすための抽象化の大切さ。DXの捉え方や仕組みの肝であるレイヤー構造。実際のエピソードや親しみやすい比喩で、理解を助けてくれます。
個人的に、①ビジネスマンとして課題への向き合い方、②自分のDX責任範囲の進め方、勉強になりました。前者は「エピソード」を通じて印象づけられ、後者は「比喩」と「チャート」で理解を助けられました。伝え方、も学びですね。
目の前の具体に囚われず抽象化する
今目の前にある具体的なもの以外も含めて、この手を打てば、何でも処理・解決できてしまうのではないか。
そういう考え方ができるか、否か。
1969年にすれ違った2つの企業は、かたや5年後に倒産、かたや50年後に時価総額25兆円、と大きく明暗を分けます。
ビジコン社は、当時多くの企業がしのぎを削っていた計算機の小型化に取り組み、従来にない小型卓上計算機の設計にこぎつけました。そのために必要な12種類のチップの生産を、創業間もないインテル社に相談します。
ここでインテル社は、12種類のチップをどう作るかではなく、可能であれば1種類に落とし込めないか、と考えます。直接の依頼事項であるチップの電子回路ではなく、その電子回路で処理しようとしているアルゴリズム注目したのです。
解決策からでなく、ものごとを本質的な課題にさかのぼって、そちらの方向に抽象化して考える。その後に解決策に再度落とし込む。一度上がってから下がる。
この考え方で、インテル社は12種類のチップのうち9種類を一つの汎用チップに置き換えることに成功。これは様々な用途に活用できると発想したインテル社は、ビジコン社へのチップの納入価格を下げる代わりに、汎用チップの権利を取得しました。
これがインテル社のその後の躍進につながります。
多様な存在を汎用的にとらえられるようになる。まず抽象化してみて、それから具体化する。この考え方は個人的に身につけるべきと感じたビジネスの姿勢です。
西山氏は、個々の課題を抽象化して関連付け、汎用的に、よりパワフルに解決していく仕組みは、DXそのものだとも言います。
一つ一つのデータに解答を付与していくのではなく、膨大なデータを絡めて捉え、なんとなくあれに似てる、なんとなく勝ちパターンっぽい、という「特徴量」を捉えるマクロのパターン認識。これがAI発展の元となるディープラーニング技術につながります。
ゼロイチの機械が人間の課題に応えられるようにすること。それがDXであり、コンピュータと人間の間をつなぐレイヤーがDXの仕組みである、と抽象化してつなげる西山氏は、本当にすごいです。
本棚を再確認して本屋にない本を探す
本書内で使われる比喩です。
本屋に並んでいる本は、すでに誰かがまとめて販売しているのだから、自分で書く必要はない。必要なのに本屋にない本、それが何かを確認する必要がある。
自社の目指すべき価値を実現するために、まずは世の中で利用可能なサービスを見回して使い倒す。そうしないとスピードは遅れるし、コストもリソースも足りなくなって競合に負ける。逆に必要なのに本棚にないもの、その中でも成功につながる可能性の高いものは、自社開発する必要がある。そういうことです。
本書ではDXにおけるレイヤー構造の重要性が繰り返し説かれます。DXにはハードやデータベースの下部レイヤーと、ユーザーインターフェースの上部レイヤーが必要、とか、ピラミッドの頂点のように一つの目的にしか使えないピラミッド型のシステム開発から、共通に出来ることを括って機能拡大を続けるレイヤー型のDXへ、など。
本棚を再確認して本屋にない本を探す作業も、縦軸では、顧客のニーズや課題という上部レイヤー、そのために必要なシステム与件という下部レイヤーに整理されます。そして本棚の右側は、外部サービスで使い倒すべきメニュー、本屋の本がが並び、左側には自社で開発すべき仕組み、自分で書くべき本が入ります。
こうして整理できて初めて、必要なリソースも明確になるし、本屋にない本が、開発できれば、その本、仕組み自体を社外に売っていくこともできる。
私が会社で担当している販促のDXプロジェクトを、自分なりにチャートに当てはめてみました。
「一旦物事がある水位に達すると、次々にドミノ倒し的に波及が起き始める。」そんな未来を想像して、ちょっとワクワクしてきます!