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『アフターデジタル2』を読んで日用品業界のDXを考える

新たなUX = User Experience、顧客体験を作り、顧客とオンライン、オフラインを横断した関係性を築くこと。DXとはそういうことで、社会をよりよくするUXが提供できないDXは本末転倒。著者の藤井保文さんの説明はわかりやすい。

私が働く日用品業界でもデジタルの浸透によって、メーカー・小売と個々のショッパーは、店内にとどまらず買い物前、買い物中、買い物後までの一連の流れの中でつながれるようになりました。

オンラインとオフラインを横断して、ショッパーの「買い物体験」をよりよいものにする。これは会社のミッションである「毎日をよりよくする」ことに直結します。まさしく日用品業界のDXだと、考えを整理させてもらえました。

属性データではなく、行動データの重要性を理解し直す点でも参考になります。

オンラインがオフラインに浸透し、ショッパーの買い物行動がデータ化、取得できるようになると、1to1、ここでは千人に千通りという意味ではなく、「最適なタイミングに、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーション方法で提供できる」ようになります。ショッピングジャーニーにおけるコンテンツとはすなわち、商品便益、キャンペーン、新製品告知等の情報でしょうし、著者は暖かい言葉でも何でも構わないと言います。

属性としては一人でも、父親、母親として、ビジネスパーソンとして、スポーツマンとしてなど、状況によってその人の人格や興味関心が異なります。

属性データの時代は「人」単位で大雑把に捉えていましたが、行動データの時代では、人を「状況」単位で捉えることができるようになります。

喜んでもらえる日用品を提案する際に、「30代独身の女性」という属性がわかっていても難しいですが、「オーガニックな香りのファブリーズを買った」という購買行動が分かっていれば、気に入っていただける確率は高まるだろうし、ショッパーはそれを望んでいます。

行動データを通じてショッパーのおかれた状況をよく理解する。そして「1to1」でアプローチし、トータルショッピングジャーニーをよりよいものにする。ここに注力したい思います。

さらに、よりよいトータルショッピングジャーニーのエンドゴールとして、わかりやすいと思ったのは、音楽サービスの例。

かつては、レコードやCD、音楽ファイルなどを曲やアルバム毎に購入していたが、今やApple MusicやSpotifyのように月額聴き放題に変化。「パーティ」や「リラックス」など雰囲気に合わせたリストを選べたり。もともと商品であった「楽曲、アルバム」は接点の一つになり、様々な接点、価値を統合したジャーニー全体を売っている。

これまでは商品だけがサービスであり、「商品を販売する」ことをゴールとして、企画し、生産し、流通させてきました。唯一のサービスである、商品自体には様々な便益、意味といった付加価値を付けて展開してきましたが、メーカーとお客様の接点はそこに限られました。

これからは、「商品はあくまで顧客との接点の一つ」であり、買い物前のレコメンド情報の発信、買い物中の便利なクーポン体験、買い物後の使用体験や開発ストーリーの共有、継続的な買い物と連動させた社会貢献プログラムの提供など、まさにトータルショッピングジャーニーでつながることが出来るし、大切になります。

モバイルが当たり前のように使われ、リアルとデジタルが融合して生活に溶け込むと、特定のサービスへのロイヤルティーが高まってファンになり、「そのサービスが選んでいる」という信頼や、「ポイントもたまって便利だ」というインセンティブによって、そのサービスからモノを買うようになります。このとき、検索や比較検討という行動は起こりません。

トータルショッピングジャーニーの満足度を高めて、ショッパーに「商品」ではなく、ジャーニーを提供する「メーカー」を選んでいただく。これは営業や営業企画、他部門にとっても、新しい夢のあるビジョンです。

以下は加えて参考になった点の備忘録。

技術とデザインの力で新しいジャーニーを形にする

安宅和人氏は、著書にて、「付加価値の時代(売上・利益ベースの成長の時代)はもう大きく進化することはなく、マーケットキャップ(時価総額)ベースで企業の価値を考えねばならない時代に来ており、それは付加価値を生み出す(売上・利益を作る)既存の仕組みの延長線上ではどうやっても到達できない」と書いています。これを踏まえ、安宅氏は「次の時代は、夢を形にする『妄想の時代』である」とし、妄想を形にするのが技術とデザイン・アートの力であると語ります。この発言には共感するところが強く、「バリュージャーニーが優位となる時代において、作りたい世界観を実現するテクノロジーとUXの能力が必要だ」という本書のメッセージとほとんど重なっているように思っています。

製品だけではなくジャーニーに世界観を宿らせる

「こうすれば世の中を今よりも良くできる」「こんな考え方のライフスタイルは素敵ではないか」といった、人々の共感や参画を生む提案を、サービスや商品とともに打ち出しているものが世界観であると言えるでしょう。製品志向の企業の場合、製品そのものには世界観を宿らせてはいるものの、マーケティングや購入時の接点、購入後の利用体験を切り離してしまっていることも多く、バリュージャーニー型のビジネスでは、あらゆるユーザーとの接点でこの世界観が体現されていないといけません。

商品や価格だけでなくつながりで店やブランドを選ぶ

例えば夜にスーツ姿のお客様が来たら「まだ仕事だったんですか?夜遅くまで大変ですねぇ、今日も1日お疲れ様でした!」ちょっとしたことだけど、そんな一言こそがお店の価値であり競争優位性であり、注文や購買に必要ない無駄な会話や行為こそが飲食店が飲食店にしかできない価値を生み出す源泉のはず。 だったら機械でできることは全部機械に任せて、人間は人間だけが価値を生み出せるような人らしい行為に時間を使えるようにできないか?そうしたらもっと接客の仕事も楽しくなって人気職業になるかもしれないし、お客様も商品や価格だけでお店を選ぶんじゃなくて、もっと人と人とのつながりで飲食店に来てくれるようになるんじゃないか。

小さな喜びの蓄積で満足感を提供する

利用者にヒアリングをしてみると、目標達成をアプリが褒めてくれているように感じられ、それが小さな喜びとなって、「せっかくたくさん歩いてポイントがもらえたし、どうせなら飲み物も水じゃなくて特茶にしておこう」「ポイントがたまってきたし、歩数ももうすぐ目標達成だから、今日はちょっと余分に歩いてみよう」という形で健康行動を続けることの励みになり、結果として三日坊主にならずに済んだというのです。 「健康行動が三日坊主で終わってしまう」状況に対して、「お得だから続ける」のではなく、「小さな喜びの蓄積によって励まされる」ことで健康行動を進んで続けられるようになる。そういう価値を、商品、自動販売機、デジタル体験を融合させることで提供できたわけだ。

UXがすべてを左右する

中国では「良質なUXはビジネスにおいて必須かつ超重要」と考えられており、プロセスの1ステップを削ることに全力を費やします。UXはビジネスに直結し、UXで負けてしまっては競争に勝てないことが分かっているからです。ビジネスモデルや接客品質が最高でも、UXが悪ければすべてが壊れるからです。スティーブ・ジョブズが一つひとつの挙動やデザインに口を出したのは、UXがすべてを左右すると分かっていたからでしょう。