花も実もある楽しい読書

人生とテニスに役立つ本

AI入門書として秀逸、かつ自分のプロジェクトにいいヒントがもらえた本『文系AI人材になる』

AIを使ってビジネスを構築する人が、のぐりゅうさんの言う「文系AI人材」。対比として、ビジネスで使うAIを構築する人が「理系AI人材」。本書はまず、文系AI人材への第一歩としてキホン(役割、種類や用語)と作り方(特徴づかみの名人であるAIが作られるステップ)を理解する入門書として秀逸。これからの人とかじった人には大いに参考になるかと思います。

個人的には、日用品販促のパーソナライズという、自分のプロジェクトを進めるために、いいヒントを二つもいただきました。

深いビジネス知識とAIを掛け合わせる

日用品のマーケットでは、私が入社した25年前からチラシ、山積み、価格変更といった販促を、小売のバイヤーとメーカーの営業が協働して計画してきました。デジタル化されて、買い物の一連の流れも変わりつつある今、ショッパーはより自分にぴったりな提案を求めています。いかに効果的、効率的に最適な提案を行うか。

人の仕事を AI が拡張する「高度な専門業務」や「予測分析業務」、自分のプロジェクトにはこれが当てはまるのだろうなと。膨大な購買データを AI にインプットし、どのような購買履歴のショッパーがオススメの高付加価値商品を買っていただけそうか、いくらぐらいのクーポンを提供すれば購入に結びつくかを予測するなど、バイヤーやセールスの仕事を拡張することもできるでしょう。

これらがショッパーにとって価値があってこそ意味をなしますが、気になる新商品を提案してくれる、買わなきゃと思っている日用品のクーポンがタイムリーに届く、こういったニーズは確実に高まっているので、ぜひ実現したいところです。

このスタイルで AI と向き合う場合、まず人が何ができて何ができないかを把握します。次に、人ができないことのうちで、「 AI によってできるようになることは何なのか?」「 AI によってできるようになることで価値が大きく上がることは何か?」を見つけ出しましょう。業務や業界における深い知識と、 AI の基礎知識を掛け合わせることで、現在の業務に大きな変革をもたらすことができるようになるでしょう。 AI が人を拡張する業務においては、 AI のことしかわからない AI の専門家だけではAI活用度を上げることが難しいです。高度な専門業務は、深い業務・業界知識がないとまっとうできない難易度の高い業務領域だからです。そのような理由から、 深い業務・業界知識があり、また AI の知識も保有する文系 AI 人材が AI 活用度を引き上げる鍵 になるのです。

これと全く同じことを先日大手小売りのデジタル企画部長がおっしゃっていました。彼はデジタルの専門家として転職してきたので、日用品の関連購買や購買頻度、ショッパーニーズについては全くの素人です、と。ビジネス知識を保有する人材が、 AIの活用方法を考えて協働することこそ、AI 利用を牽引するということですね。

アイデアを段階ごとに遠くまで進める

本書と自分のプロジェクトを照らし合わせると、達成すべき段階が見えてきます。

最初のステップは、ショッパーのニーズにあった製品をおすすめできるようになること。アマゾンなどのECでは一般的であるリコメンド機能を、「機械学習」を活用して、リアル店舗からのオファーに実装する段階です。日用品のお買い物には送料の占める割合が高いですし、ショッパーはリアルでのお買い物が好き、という側面もありますから、第一段階とはいえ、リアルで実装される破壊力はあると思います。

購買履歴にもとづくおすすめ商品は何か、特徴量を導き出す作業は人間が時間を使うことによってある程度の精度で予測可能なので、「 予測系×代行型 AI 」と呼ばれる段階でしょう。

その先は、新規のショッパー、リピートのショッパー、それぞれにどの商品をいくらでおすすめすれば売上と利益が最大化できるか。ここまでいくと、人間が正確には予測しえない高精度予測であり、「予測系×拡張型 AI」といえます。「ディープラーニング」を使ってこの段階に達するのも、そう先のことではないのかもしれません。

「どれくらいの人が何を買うか」が予測できるようになると、 最適な価格設定ができるようにもなります。ダイナミックプライス(動的価格)といわれるものですが、各商品をいつの時期にいくらで売れば、売れ残らず、また利益が最大になる価格を AI が導き出すのです。また、「誰がいくらで買うのか」までわかると、顧客別の動的価格設定も可能になります。

この他にも、AIがどのように作られるのか、教師あり学習で作る予測系AIを例に解説される3つのステップ、「データ作成」「学習」「予測」の話など、読み返して叩き込みたいですし、下記の最後のコメントは、プロジェクトを進めていくにあたり、半年ごとに振り返りたいと思います。

フランスの小説家であるジュール・ヴェルヌは「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉を残していますが、AIにおいても同じことがいえます。人間が想像できるAIはいずれ実現されていくということを前提に、アイデアを小振りなものにしないことを念頭において、AI企画に取り組み始めましょう。