花も実もある楽しい読書

人生とテニスに役立つ本

『ソロモンの偽証』怖くて、考えさせられて、爽快で面白い小説

 久しぶりに読んだ宮部みゆきさんの作品は、中学生の娘に進められて。本当に、この人はなんてすごい物語を書くんでしょうか。初めて読んだ『模倣犯』は、夜の8時に読み始め、怖い思いをしながら朝の8時まで、夜通し読み続けたのを覚えています。この物語は、下記のように始まり、進んでいきます。

『クリスマス未明、一人の中学生が転落死した。柏木卓也、14歳。彼はなぜ死んだのか。殺人か、自殺か。謎の死への疑念が広がる中、“同級生の犯行"を告発する手紙が関係者に届く。さらに、過剰報道によって学校、保護者の混乱は極まり、犯人捜しが公然と始まった。』

 論理的な思考や計算はできるが、他者への共感性や罪の意識が欠落している人間。脳科学者の中野信子さんは『サイコパス』で、そういう人間が100人に1人はいると指摘しました。学校や会社、100人単位で集まる集団の中には実際に、常識とされるルールや通念を、あっさりと乗り越えてしまう人間がいるのでしょう。

 『ホモ・デウス』でユヴァル・ノア・ハラリは、宗教とは単に「神の存在を信じること」ではなく、社会秩序を維持して大規模な協力体制を組織するための手段で、中世のキリスト教も、現代の人間至上主義も、いずれも宗教といえると語りました。中世で死刑は当たり前の存在だった。現代でも動物を殺しても死刑にはならない。ならば、命を奪うことは絶対悪だとか、全ての人命は等しく尊いというのも、現代のひとつの教義に過ぎないのかもしれない。

 読み進めるうちに、そんなことを考えました。途中、描かれる様々な人の悪意に身がすくむ思いをしますが、それに抗して、真実を求めて戦いを始める中学3年生たちは爽快です。そして宮部みゆき氏の物語はいつもそうかもしれませんが、最後には救いがあります。中学生から大人まで、夢中に楽しめる小説です。

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)