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『新・観光立国論』客観的目線でのインバウンド戦略

 元アナリスト、現在は国宝修復を手がける日本企業の社長であるイギリス人、というデービッド・アトキンソンさんが、人口減少社会を迎える日本の成長戦略として観光立国の道を説きます。

 ゴールドマン・サックスで日本の不良債権規模や銀行再編を予測した敏腕アナリストであり、議論に感情をはさまないイギリス人らしく、全体的に客観的かつデータベースで説得力があります。観光立国として必要なことがマクロな視点から説かれていますが、観光に限らず、ビジネスでインバウンドに関わる人に特に面白いでしょう。

 個人的に参考になった点が2つあります。

 まず、キホンのキである、お客様のニーズを理解すること。そもそも外国人旅行客は日本人ではなく、当然日本人と違う価値観を持っています。サービスに対する期待値も違うお客様に、日本人のやり方を押し付けるのもいただけません。

客を「おもてなし」するのなら、まずは相手が何を考えて、どういうことを求めているのかを考えなくてはいけません。直接彼らの声に耳を傾けたうえで「おもてなし」をすればいいのに、「聞く」というプロセスを飛ばして、「相手はこうだろう」と思い込み、自分の都合のいいように解釈した「おもてなし」を押し付けている出のはないでしょうか。

  もうひとつはマクロ分析で目標とする「経済効果」を計算して、それだけの効果を生み出すための「顧客」「商品」「計画」を立てていくということ。

そのようなマクロ分析で、「顧客」を洗い出していきましょう。まず、日本は約500兆円の経済規模です。前にお話ししたように、世界のGDPに占める観光業の割合は9%ですので、日本においても、今の2%程度のGDP貢献度を9%まで増やしていけば、観光産業は総額約54兆円規模になるはずです。約40兆円もの追加経済効果があるのです。他の観光大国にならって1人あたりの航空券以外の支出を20万円として、なおかつ、外国人の貢献を21%だとすると、日本が本来目標とすべき観光客数は5600万人という数字がはじき出されます。

  著者もシンプルなマクロ分析は意外にも的中する傾向が強いと言っています。ベースとなる根拠がないと動きにくいけれど、根拠固めにいつまでも時間を使って動けないでいるより、大きな数字をもとに動き出すことが大事だと思います。

 

デービッド・アトキンソン 新・観光立国論

デービッド・アトキンソン 新・観光立国論