花も実もある楽しい読書

人生とテニスに役立つ本

『人生の勝算』若き苦労人の経験値は、企業人の仕事にも参考になる。

 ライブ配信&視聴のストリーミングサービス「SHOWROOM」を立ち上げ、『メモの魔術』がベストセラーとなった前田裕二さん。著作紹介では「SNS時代を生き抜く為に必要な“コミュニティ”の本質と、SNSの次の潮流であるライブ配信サービスの最前線がわかる。」とありますが、その前段階の、タフな人生経験を踏まえて共有してくれた3つの知見が、サラリーマンとして大いに参考になりました。

「余白」と「常連客」

 小学生の弾き語りにも、人間的な繫がりを作れればお客さんは1万円を払う。その経験の意味を見事に抽象化した前田さんは、スナックというコミュニティに持続性がある理由を説明してくれます。

 未完成な感じ、「余白」の存在が、共感を誘い、お客さんの積極参加を促す。スナックでずぼらなママとのコミュニケーションを楽しみに通う客は、ママが酔いつぶれると、グラスを洗ったりお酒を作ったりする。お客さんと店員の境目がなくなっている。そこが自分の居場所であり、守るべき城だと思うようになったお客さんは、お店側の目線で行動を起こすようになる。

 スナックが一見さんが入りにくい雰囲気になっているのは、長年通っている「常連客」によって成立しているから。空間を閉じたものにすることが、「俺たちだけの場所」といった具合に常連さんの所属欲求を掻き立てるのだ。

 「常連客」を「中の人」にできると、コミュニティは一気に強固になる。余白をうまく演出して、客と店の境目を不明確にしていくことが重要。キングコングの西野亮廣さんの絵本『えんとつ町のプぺル』が大ヒットしたのも「お客さんを中の人にした」から。西野さんはよく「共犯者を作る」と言うが、一人で作って10万人に売るのは難しいけど、10万人で作れば最低10万人が買うであろうと。具体的には、クラウドファンディングを活用して、「自分も一緒にこのプロジェクトに参加しているんだ」と感じるファンや共謀者、中の人を増やしていったのが、ヒットの支えになったのだろう。

 とにかく人に好かれること

 前田さんがUBS証券のトップ営業マン時代に師匠と仰いだ宇田川宙さん曰く、「勉強なんかいらないよ。とにかく人に好かれること。掃除のオバちゃんでも、受付の人でも、好かれなくちゃだめだ。」

 前田さんがインターン時代に本社ビルの1階で話した受付の女性は宇田川さんのことを大いに慕っていた。その理由を聞くと、名札で名前を覚えて、受付を通る度に、きちんと目を合わせて挨拶する人は、ビルの中でも宇田川さんただ一人だったと。宇田川さんは人に好かれる天才だが、それ以前に「人を好きになる天才」。他人と接して、その人のいいところや、感謝できるポイントを自然に見つけて、まず自分から好きになってしまう。好きになられたら誰だって、悪い気はしない。人間関係は鏡であり、人は好意を受けたら好意を返そうとする生き物だから。

 USB証券でトップセールスとしてスキルを極めた宇田川さんは、ある時、一人で到達できることは限られていることを感じたそう。チームを育て、みんなの力を掛け合わせていけば、より高みへ到達できる。そのためには、まず、誰からも好かれてサポートしてもらえる環境を作ること。次に、自分のこと以上に周りに時間を使って、周りを強く育てることで、チームとして最強になること。それを重視し、徹底されたと。

 人に好かれる能力を磨くより、人を好きになる能力を磨く。人を好きになることはコントローラブル。自分次第でどうにかなる。人に好かれるのは、自分の意志ではどうにもならない。コントローラブルなことに手間をかけるのは、再現性の観点でも、ビジネスにおいて当然だという前田さんの指摘はまさしくその通り。

 仕事の基本は、思いやり

 思いやりとは、「他者の目」を持つこと。

 例えば『伝え方は9割』で紹介される自転車放置問題。「ここに自転車を停めないでください」という貼り紙があるが、停める方も迷惑だと分かって停めているので効果はない。これは呼びかけ側の「自分の目」。「他者の目」を使うと、停めたくなくなるようにすればいいと分かる。例えば「自転車捨て場」と貼り紙を張る。

 人と話すとき、「この人は今どんな気分なのか?」「この会話に何を求めているのか?」など、集中して相手の心を見極める。ポジティブな関係を築いたり、一緒にビジネスをしていくのに必要なデータを、徹底的に「他者の目」になりきって取得する。どんなビジネスであれ、そこに人間が介在する以上、コミュニケーションが重要。そしてコミュニケーションに求められることはシンプル。相手の立場に立つこと。

人生の勝算 (NewsPicks Book) (幻冬舎文庫)

人生の勝算 (NewsPicks Book) (幻冬舎文庫)

  • 作者:前田 裕二
  • 発売日: 2019/06/11
  • メディア: 文庫