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試行錯誤の軌跡:人類の歴史を探る(4)4千年前ー領域国家の成立。それぞれの社会に必要なあり方の選択

情報を記録するために、数千年の試行錯誤を通じて文字体系を確立した人類は、各地に領域国家を成立させ、それぞれの社会に必要なあり方を選択して行く。

4千年前ー領域国家の成立

紀元前3千年紀、メソポタミアからエジプトに多くの領域国家が誕生した。マックス・ウェーバーは「国家とは、特定の地域内で合法的に使用可能な強制力を独占すると主張する機関である」と定義した。多くの社会学者たちは、社会が複雑になるにつれ、ものごとを調整するため「トップダウンの指揮構造が必要」となり、食料の自給から解放されたフルタイムの専門家と、彼らが管理する制度が生まれ、国家となったと主張した。

万物の黎明』で著者たちは、都市国家や古代文明の成り立ちには様々なケースがあり、社会が複雑になれば必ずトップダウンの指揮構造が生まれる、と直線的に進む訳ではないと説く。人類はその社会に適した制度を、試行錯誤しながら都度選び取ってきたのだ。国家形成の過程で基礎となる三つの原理、すなわち主権、行政管理、競合的政治、がどういうもので、国家の成立と発展にどう関わってきたかを見ていこう。

  • 主権: ある領域内でものごとを強制する権力と決定権が一つの集団にあること。その集団は領域内での法律や規則を定め、実施する権限と、外部干渉を排除する権利を持ち、国家の独立性と自律性を保障する。
  • 行政管理: 国家の政策が計画通りに実施され、公平かつ効率的にサービスが提供されるための仕組み。税金の徴収、法の執行、公共サービスの提供など、国家の機能を維持するための日常的な業務を支る。
  • 競合的政治: 国家内部での権力の分配と競争。権力の集中を防ぎ、多様な意見や利益が政策決定過程に反映されることを促し、国家の政策や方向性が一部の集団によって独占されないようにする。

古代メソポタミアの国家に当てはめてみよう。ウル、アッシリア、バビロンなどは自らの領域において、土地と暮らす人々、産出される農作物や財産を己のものとする主権を確保していた。神殿や王宮の管理下で、土地の配分、灌漑システムの管理、税の徴収、法律の執行などを行う行政システムを持っていた。競合的政治は、隣接する都市国家との領土や資源を巡る競争として限定的に現れた。

古代エジプトでは主権とより高度な行政管理が発達した。ファラオが神の代理人として土地全体とその人々に対して主権を有し、宗教的、政治的、軍事的な指導者としての役割はエジプト全土で尊重されていた。ナイル川の氾濫と農業の周期に基づいて機能する社会を管理するために高度な行政システムが確立され、役人や書記官は税の徴収、土地測量、穀物の備蓄管理、建設プロジェクトの監督など、様々な行政的業務を担った。一方で強力な中央集権体制ゆえに、政治的競争は限られていた。

エジプトにおいては、国家運営に欠かせない文字の成立時期はメソポタミアよりも五百年ほど後であったと考えられるが、より高度な行政システムが確立したのは、国土がナイル川という一本の大河によって成立していたため、一貫した灌漑統制などの必要性がより大きかったことが理由だろう。競合的政治なしに、神と王が一体化した強力な主権を維持できたのは、砂漠と渓谷という天然の要害に守られていた地理的要因が大きそうだ。

一方のメソポタミアは、開けた土地に豊かな沖積平野が広がり、そこを目指す他民族の襲撃も多かった。また、早期に都市が成立した南メソポタミアで進んだ塩害による収穫減少なども、隣接する都市国家との資源争いを激化させた。メソポタミアで主権を確保するには、神の権威だけではなく、力の誇示が重視されることになった。

人類社会は、大きくなれば直線的に特定の形を目指すものというより、それぞれが必要とする形を、試行錯誤しながら作り上げていくものだといえるだろう。

 

次なる人類の岐路は「(5)3千年前ー古代グローバル文明の形成と崩壊。次代への試行錯誤」だ。

(3)5千年前ー情報の記録。数千年の試行錯誤で完成した唯一の文字体」はこちら。