人類が他のホモ属と一線を画すようになった最初の決定的な岐路。それは7万年前ごろ、認知能力の発展により、仮説検証という人類のならではの行動が始まったことだ。

ホモ・サピエンスの社会はなぜこれほど発展したのか。きっかけは7万年前に起きた認知革命だ、と『サピエンス全史』でユヴァル・ノア・ハラリは言うが、彼が言うように、この時期に革命的な突然変異があったのか、数万年の時間をかけて他のホモ族と一線を画す変化が起きたのかはわかっていないようだ。ただ、約30万年前に誕生した人類が約5万年前にアフリカを出るまでの間に、認知的な革新を起こしたことは定説らしい。
「なぜそれが起こったのかは、私たちの知るかぎりは全くの偶然だった。重要なのは原因よりも結果を理解することだ」と、サピエンス全史は一文で片付ける。その問題に切り込んだのが、認知学者の今井むつみと言語学者の秋田喜美だ。『言語の本質』という本は新書ながら素晴らしく中身が濃いのでおすすめだ。人類に認知的な革新が起きたのは「対称性推論」をしがちな種だからのようだ。
対称性推論とは「AはB」であるなら「BはA」、という双方向性があると考える推論。「マンモスは動物」だけれども、「動物はマンモス」と限らないように、対称性推論が導く仮説は必ずしも正しいわけではない。そんなあやふやなものを人類以外の動物はほとんど使わない。偶然にも、決めつけをしやすい脳のバイアスが人類にあった。だから、モノには名前があるもんだ、名前ってのは「言葉」と「対象となるモノ」の双方向で成り立つもんなんだ。この2つのことを能天気に信じ込める能力が、言語という記号体系を構築していくには必要だったのだ。
このことは、一人の赤ちゃんが言葉を身につけていく過程や、チンパンジーには言葉を身につけることができないことから、認知学的に確認できるらしい。
約7万年前に始まった最終氷期によって、我々の祖先は数千から数万にまで減少したようだ。寒冷化を生き抜いたアフリカのホモ・サピエンスの群れは、対称性推論をしやすい脳のバイアスを持っていた。認知能力を発展させた人類は言語能力を育み、試行錯誤を重ねて象徴的思考、社会的協力、技術革新などを可能とし、世界各地へと散らばっていった。
次なる人類の岐路は「(2)1万2千年前ー定住の拡大。社会的な試行錯誤の進展」だ。
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