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『オードリー・タンの思考』ソーシャル・イノベーションの天才に学ぼう

本書のはじめに紹介される、インタビュー初日のオードリーの言葉。

これからあなたが本を出す前に、少なくとも2つの日本の出版社から私に関する本が出ます。どちらも私の過去の仕事を作品集のようにまとめ、通っていた幼稚園の事まで細かく書いてくれたものです。あなたの話を聞いていると、読者が社会改革や革新に参加できるようになってもらいたいという、「ソーシャル・イノベーション」がテーマである点が、それらの本と違うように思えます

「一人の天才を生むことは難しいが、一人一人の心に小さなオードリー・タンを宿そう」というのが本書のコンセプト。

オードリーの言うソーシャル・イノベーションとは、人々が持つ考え方やスキルを社会に広く開示、共有することで、社会にとってよい方向性を見出すことと、解決策を実装することを可能にし、変革を起こすことと理解しました。

そのためにはデジタルの活用も必要ですが、考え方をオープンに共有し、一人一人が行動を起こすことこそが大事なんですね。オードリー・タンを単に「IQ180」の天才ではなく、このような「考え方」の天才として日本に紹介してくれた著者の近藤弥生子さんに感謝します。

以下は理解が深まったエピソード、感銘を受けた言葉など。

ソーシャル・イノベーターとしてのオードリーの活躍

台湾におけるひまわり学生運動

日本でのオードリー・タンは「天才プログラマーでトランスジェンダー」「彼をIT大臣に抜擢する台湾社会の先進性」「アベノマスクの日本とマスクマップの台湾」など、特殊事例や日本との対比として語られることが多い気がします。

本書でも初期のエピソードは、シビックテックやオープンソースといったキーワードで語られ、コードを書けるプログラマー、しかもその先端を行く人間にしか参考にならないように見えます。しかし「ひまわり学生運動」のくだりから、物語は一気に広がりを見せます。

そもそも台湾の戦後史については、第二次大戦後に国共内戦に敗れた蒋介石政権が接収し、今ではIT産業が大いに発展、ぐらいの知識しかありませんでした。1987年まで戒厳令が敷かれ、為政者による弾圧が厳しかったそうです。李登輝総統時代からの30年で民主化と経済発展が進みます。

2014年、日本の国会にあたる立法院が、非常に多くの人々に影響を与える、中台間のサービス市場を解放する協定を、国民に後悔しないままに中国と締結しました。これに怒る学生が立法院を占拠したのが、ひまわり学生運動です。

ひまわり学生運動で、オードリーらが行ったこと、それは、デジタルを活用したコミニケーションの確保だった。市民(政治的な共同体である社会の構成員)は会話を求めて立法院に集まった。「考えや主張が異なるもの同士、まずはお互いを見えるようにするべきだ。その上で、合理的な対話をして解決の糸口を見つけよう」。それが彼女たちの姿勢だった。でも初日の夜から最終夜までの22日間、立法院議事堂内も外もお互いの様子がリアルタイムでわかるように言ってYouTubeライブ通りをしてライブ中継を行ったのだ。

サービス貿易協定は中国と関係があるため、中国に近い台湾メディアがデモ隊を批判するなど、報道のされ方も媒体の立場によって様々だった。また、独立主義者や左派は当然のこと、環境保護主義者、人権擁護者、労働者など20ほどのNGOがそれぞれの主張を持ち、サービス貿易協定に関わる議論を多角的に展開した。そんな中でオードリーらは、ライブ中継という手段により、主観を入れることなく現場の様子を伝える中立の立場を守った。

「カメラがある場所とない場所で、人が取る行動は変わる」
そうオードリーは話す。実際、いたるところに設置されたカメラの効果か、「昨日はここまで話したから、今日はここまで話そう」と3週間にわたって話し合いが行われ、最終的に関係者の合意を得た要求をまとめることに成功する。

人の目にふれるようにすることで、感情的、自分勝手になり過ぎず、人が取る行動が変わる。圧力や破壊行為ではなく、たくさんの人に様々な意見があることを示す行為がデモである。多くの国民が参加して議論された合理的な意見であれば肯定される。

実際に仕組みを提供して社会を前進させ、大切なことが何かを見極めて社会に還元する。オードリー・タンはITの天才であることと同じ以上に、ソーシャル・イノベーションの天才で、後者はプログラマーに限らず、大いに学べることがあります。

法規討論プラットフォームの導入

その後に彼女が行政院への導入をリードした民間による法規討論プラットフォームも、下記のような彼女らしい特徴を持っています。Uberの台湾進出への対応を例に、台湾社会で非常にうまく機能している様子が理解できます。

  • 多様な意見を集める。それらを可視化する。
  • 利害関係者が集まり、意見を発表する。その様子も可視化する。
  • 探索する段階では意見に上下関係は必要ない。共同価値を定義した後、解決方法の討論や予算付けなどは従来の権威が執行すればよい。

オードリーの言葉

彼女の様々な言葉から、やわらかさにつつまれた強い信念と一貫した態度が見てとれます。

インターネット後の社会で生きる子供たちに必要な教育

「学校では社会に適した子供を育成するべきだ」といった考えが主流でした。しかし、現代社会の変化はとても早く、十数年後の社会が誰にも予測できないシンギュラリティーを迎えようとしています。それでは学んだことが、未来では何も役に立たなくなっているかもしれない。だからこそ、子供たちが社会の新しい変化に応じて学び、その社会にとって皆の共同価値が何かを見出せる素養を育てようということになったのです。

子供が自分で進路選択をしやすくするための成人年齢引き下げ

高校から大学への進学率が90%以上という今の台湾では、高校を卒業したら大学に進まなくてはならない、そうしないと保護者に反対されるというのが一般的な考え方かもしれません。高卒で働こうとしても、保護者の同意が必要になります。けれどもし18歳で成年と見なされれば、子供たちは保護者の言うことに従わずとも、自分で進路を決められるようになります。

イギリスは16歳で成年ですからね。でも毎回少しずつ、一歩一歩進めば良い。その方が、皆が受け入れやすいでしょう。

なぜ学者の道を選ばず、大臣の道を選んだのか

私はすべての時間を研究に当てていますよ。見知らぬ人同士がどのように共通価値を作り上げるか。それが私の研究テーマです。

あなたの質問が「なぜ教授にならなかったのか」という意味でしたら、教授は所属している大学の学生のために精力的に力を発揮するのに対して、私が協力し、学びたいと思っている相手は世界ですから、範囲が違うのです。

(デジタル大臣に就任にあたり行政院長に出した条件は)行政院に限らず、他の場所で仕事をしても良いこと。出席するすべての会議、イベント、メディア、納税者とのやりとりは、録音や録画をして公開すること。誰かに命じることも命じられることもなく、フラットな立場からアドバイスを行うことの3つです。院長はすぐに「問題ないですよ」と言いました。

ソーシャル・イノベーションが産業イノベーションと違うのは、彼らの商品を買ったりサービスを受けたりしなくても、「こういったコラボレートが可能である」という概念を学ぶだけで、たとえ物理的にとても遠い場所のことでも、自分たちの問題としてすぐに取り入れることができる

もちろんソーシャルイノベーションには科学知識やITスキルが必要になるが、それよりももっと大切なことは「どのようにすれば社会にこの概念が伝えられるかという観点を持てるかどうか

地方では、ソーシャルイノベーションな必要で問題は都市部より多岐に亘ります。どうやったら各種の木の葉を安全の食材にできるか?私有の古い建築物をどのように保管したらいいか?など、様々な知識を必要とするので、当事者だけで解決するのは難しいですし、かといって私1人でこれらの全てを最後まで把握するのは不可能なことです。だから、ここで上がった問題については各省庁の協力のもと、担当者から回答してもらっています

なぜソーシャルイノベーションが必要なのか

環境や社会問題について取り組もうとする場合、まずは団体等を作って解決しようとしますよね。けれど、多くの大企業や大学等も同じようにそれらの問題を解決しようとしています。彼らは互いにベストな考え方を探り会うこともなく、別々の場所でも逆のことをしているのかもしれません。私たちの仕事は、すべての人が孤独に戦うのではなく、助け合えるようソーシャルイノベーションを用いて新することです。これは台湾だけでなく、世界中どこでやっても必要とされていることだと思いますよ

オードリーが考えるハッカーにとって大切な5つの心得

  1. この世界には、非常に面白い問題が私たちを待っている。
  2. あなたが一つの問題を解決した後、他の人が同じような問題に時間を無駄に使うことのないよう、自分が思いついた解決方法をシェアしよう。
  3. 単調でつまらないことは、人類がやるべきではない。機械を使って自動化しよう。
  4. 私たちは自由とオープンデータを追求する。どんな権威主義にも抵抗する。
  5. 自らの知恵を差し出し、勤勉に鍛錬することで絶えず学習する。

「考え方」こそが、主役

私の考え(として広まっている意見)も誰か他の人から来たもので、私も他の人にそれを受け渡しているのです。「これは誰の考えだ」ということではなく、考え方こそが主役なのです。私たちはその考え方を継承しているに過ぎません

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g0vàlegouvernement speaker deck by Audrey Tang