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『源頼朝の世界』鎌倉殿と歴史好きには絶対楽しい歴史エッセイ集

2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。北条義時に興味を持って、義時と源頼朝のWikipediaを熟読するまで、本書の著者、永井路子さんは存じあげませんでした。

1979年出版の本書は今回の大河放映を機に復刊したようですが、今読んでもフレッシュで、鎌倉時代を深く知るには最適です。塩野七生さんといい、女性歴史小説家の人間洞察力はすごいですね。

あとがきにある、鎌倉という時代の捉え方と、頼朝と同時代人の書き方。これらが何ともカッコよく、印象に残りました。

鎌倉時代は(古代社会に終止符をうち、中世社会を実現した点で、近代社会を確立した明治維新に対比される、新時代を開く)日本史上稀にみる大きな変革のなされた時代だが、これは決して源頼朝個人の力で行なわれたものではない。変革の真の担い手は東国武士団であり、正確には、あの時期行なわれたのは東国武士団の旗揚げだというべきであろう。

そう思うからこそ私は、頼朝に焦点をあてて時代の主役として扱うことを自分に対していましめてきた。それが最近、彼について書く気になったのは、もとよりその考え方が変わったわけではない。彼についての評価は前同様だが、それを踏まえた上で、あの時期に彼が果たした歴史的役割が描けるところまで来たような気がしたからだ。それには彼の同時代人を書きつづけてきた十数年の歳月が支えになってくれたと思う。鎌倉という名の人物地図を一区劃ずつ塗っていったことによって、頼朝という色に塗るべき部分がおのずと浮かびあがったということだろうか。