花も実もある楽しい読書

人生とテニスに役立つ本

『すごい宇宙講義』物理が苦手でもブラックホールとビッグバンがわかる本

夜空の向こうに夢を馳せたこと、誰でもありますよね。ブラックホールやビッグバンって何なんだ、知りたいなと思ったことがある人も多いはず。

著者の多田将氏は素粒子研究の専門家。宇宙の専門家ではなくて、教えるのが飛びきり上手な科学者。宇宙を題材に科学の「面白さ」と「考え方」を伝えます。

わかりやすい例やイラストが、理解する足がかりに。私のような物理の素人も、ブラックホールやビッグバンの原理を、自分なりにかみ砕くことができました。

「着想や理論」と「観測や実験」、科学の発展には2つを絶えず繰り返していくことが大切。「考えること」と「やってみること」。研究でも、仕事でも、スポーツでも何でも、これが大切ですね。

看板に偽りなしのすごい講義ですので、ぜひ手に取ってお読みください。

素人の私が理解した中身は下記ご笑覧。

すごい宇宙講義

すごい宇宙講義

  • 作者:多田将
  • 発売日: 2014/05/02
  • メディア: Kindle版
 

ブラックホール

まず、物質が天体から飛び出すには、その天体が持つ「重力」に負けないだけの力、すなわち速さが必要です。地球の場合、その速さは秒速約11キロ。重力の強さと脱出に必要な速さは比例します。

光ですら脱出できないブラックホールの正体は、光の速さ、秒速約30万キロでも脱出できないだけの重力を持つ天体、ということなんですね。

重力は質量と大きさによるため、理論的には、地球を重さはそのままに、半径を8.9㎜にすると、ブラックホールになるんだと。もともとブラックホールは理論が先に成立して、観測による存在の確認はずっと後になってからです。

理論上、ブラックホールになりえるほどの質量の圧縮が可能となる力は宇宙でも限られていて、主に想定されるのは、太陽の30倍以上の大きさの恒星の超新星爆発による重力崩壊です。燃え続けるエネルギーを使い果たして、グシャッとつぶれちゃうイメージです。

ブラックホール自体は光が脱出できないので人間の目には見えません。ではどうやって観測するのか。ブラックホールによって発生するはずの現象を探します。

ブラックホール周辺に存在する、恒星の残骸等のガス、粒子は、光の速度に近い速さで吸い込まれていきます。その速さで動く粒子同士が衝突する時、ジェットが上下に飛び出していきます。ジェットはX線のような放射光のはずで、それ自体は観測ができる。

大気圏外にあるハッブル宇宙望遠鏡からNGC5128銀河を可視光線だけで観測すると、中心部に暗い部分が。可視光線にX線を重ねると、見事にジェットが出ているのが見えます。この中心にブラックホールがあると考えられています。

ビッグバン

まず「温度」とはなんぞや。ビッグバンのとっかかりはここからです。

温度とは、ある一定の空間内に存在する粒子の運動量、エネルギーの合計。密度が高いと温度が高く、密度が低いと温度も低い。同じ電車の車両内でも、満員でギュウギュウ詰めの時は暑く、スカスカなら涼しい、そのようなイメージです。

冷房はまさにこの仕組み。まず冷媒となるガスを圧縮、室外機で取り込んだ外気で冷まして室内機に送り込みます。膨張する際に冷えるので、室内機からは冷気が出てくる。ハーっと吐いた息は体温と同じなのが、口をすぼめてフーっと吐くと冷たくなるのも同じ仕組みです。

この急激な膨張で温度が低下していく変化がビッグバンのヒントになりました。

宇宙が膨張していることは、恒星や銀河からの光の観測で証明できます。ということは、現在の宇宙は絶対温度3度=摂氏マイナス270度ですが、もともとはもっと小さく高温だったのではないか。

温度が変化すると、物質は相転移を起こして変化します。H2Oなら、個体、氷の状態から、摂氏0度を超えると液体、水になり、100度を超えると気体、水蒸気に。高温になるに従い、H2O粒子の動きはどんどん活発になります。

宇宙が膨張する前、誕生した直後はとんでもない温度だったはずで、そのような温度だと粒子はどのような状態なのか。宇宙誕生直後の「過去」の粒子の変化を実験で観測できるのが粒子加速器です。

実験結果から、非常に高温になると、物質が原子から、電子と陽子と中性子に、さらにそれが素粒子へとがバラバラになって自由に動き回る相転移が起きることがわかりました。

ビッグバンが始まった時点は、究極の高温、究極の圧縮状態。そこから膨張が始まり、温度が下がっていく過程で、一つに混ざり合っていた粒子の運動が少しずつスローダウンし、素粒子が誕生していったと考えられています。

まず重力、次いで強い力、そして弱い力と電磁力の誕生。三度の相転移が発生しました。それから各素粒子が原子核に閉じ込められて元素が生まれ、原子となり、宇宙の素が出来上がって広がっていったのです。

すごい宇宙講義

すごい宇宙講義

  • 作者:多田将
  • 発売日: 2014/05/02
  • メディア: Kindle版