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『三体 II 黒暗森林 上・下』普遍的な真理、有効な戦略は単純。発想が大きくなるSF小説

 第一巻『三体』で双方の存在を知った三体文明と地球文明。三体文明から地球を侵略すべく送り出された星間艦隊が地球に到達するのは四百数十年後。現時点では科学技術で圧倒する三体文明だが、それだけの時間があれば地球文明は十分に対抗可能な科学技術を発展させうると予見する。彼らは次なる星間艦隊建造を白紙に戻し、全リソースを投入して極微スーパーコンピュータ・智子を開発した。智子は光速に近い速度で地球に到達し、地球の素粒子研究、すなわち物理学が次のステージに上がることを阻止する。地球文明は、このままでは来る「終末決戦」に敗北することは必定であるため、対抗策を探す必要に迫られる。

第二巻の前提をまとめるとこんな感じ。

人類の科学技術が次のステージに移行するための鍵が素粒子研究なんですね。スーパーカミオカンデが小柴さんのノーベル賞受賞につながったことに納得です。

第一巻のナノテクノロジーを使った活劇には度肝を抜かれましたが、第二巻はさらに突飛、かつスケール壮大です。

侵略艦隊が出発したことも、「智子」に監視、邪魔をされていることも知った地球文明。絶望的な状況を打開するため、「面壁計画」を発動します。会話や文書等、あらゆるコミュニケーションにアクセスできる智子に情報が漏れないように、面壁者と呼ばれる選ばれた数人に、非常に特殊な権限が付与され、三体文明への対抗措置が計画されようとしていくのです。この構想が本当に面白いです。

それからの約200年の年月、一旦のエンディングまで、大変面白く読ませる『三体 II 黒暗森林』です。

 

「生存は、文明の第一欲求である。文明はたえず成長し拡張するが、宇宙における物質の総量はつねに一定である。」

上巻の序章に宇宙社会学の公理として登場する言葉なのですが、これが第二巻、黒暗森林のテーマであり、最大の伏線になります。それが何かは読んでのお楽しみということで。最後にネタバレにならない一箇所だけご紹介させてください。

単純だからと見くびってはいけない。単純であることは堅固であり、数学という大伽藍は、これ以上単純にできないほど単純な、それでいて岩のように堅固な、公理という基礎の上に建てられる。

普遍的な真理は、非常に単純、シンプルである。見過ごされている事象は、名前を付けられて初めて、アイデアとなり、成長していく。

仕事でも、有効な戦略は無理がなく独りよがりでなく、筋の良さが欠かせない。

アイデアに多くの人間にピンとくる名前をつけることができれば、意図を明確に共有でき、広がっていく。

そういった哲学やビジネスに大切なことも考えさせてくれました。第一巻にもましてスケールが大きなSF小説。21年春刊行の第三巻も楽しみです。

三体Ⅱ 黒暗森林(上)

三体Ⅱ 黒暗森林(上)

  • 作者:劉 慈欣
  • 発売日: 2020/06/18
  • メディア: Kindle版
 
三体Ⅱ 黒暗森林(下)

三体Ⅱ 黒暗森林(下)

  • 作者:劉 慈欣
  • 発売日: 2020/06/18
  • メディア: Kindle版