アジア人として初めて、SF界で特に名誉あるヒューゴー賞に輝いた中国人作家、劉慈欣のSF大作。ヒューゴー賞はかつてハリーポッターシリーズも受賞しているぐらいで、ストーリー性に優れたファンタジーを重視しているのかもしれません。物語の前半は、中国の文化大革命とその後を舞台にした近現代の歴史もの、謎めいた事件にハラハラさせられる現代サスペンスもの、そのような感もあります。後半は一気にスケールの大きなSFに。SFはテクノロジーが追い付いてきて賞味期限が限られるとも言いますが、新たな「古典」になれそうなぐらいの、ストーリー性の大きさを感じます。そういった意味で、幅広い層が楽しめるのではないでしょうか。
中国語から英語に翻訳されたのちに日本語訳が発売されるため、中国では既に三部作が完結していますが、日本では第二部が2020年夏ごろの刊行とのこと。本書は第一部ということになりますが、いいところまで完結してくれているので、単体としても十分楽しめました。さらにスケールが大きくなるであろう続編を待ちたいと思います。
物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?