花も実もある楽しい読書

人生とテニスに役立つ本

『プラチナタウン・和僑』地域活性化したくなっちゃう小説 ①

 人生100年時代。日本の社会構造が変わる中で、地方の経済が成り立っていくためには、やり方を大きく変えなければならない。元エリートサラリーマンが、町長として宮城県の田舎町で奮闘する、すごく面白い小説です。同時に、自分がサラリーマンとして20年以上働いてきて、これからどうするか。将来に想いを巡らせるきっかけにもなる、素敵な小説です。

  自分は都会育ちですが妻の実家が日本海側の小都市にあります。海と山に囲まれた素敵なところで、たまたま学生時代の友人がそこで仕事をしていることもあり、活性化して欲しいなと、考えちゃいますね。

 

プラチナタウンより

「だいたいこの町になんか売りもんになるもんってねえのかよ」 「大したものはねえなあ……」クマケンは思案を巡らすように天井を見上げた。「んでもね、一つ一つはその道にハマってる人には大受けするものがあんだよ」

  地域の人には当たり前でもすごい産物って色々ある気がします。精米したての新米の美味しさは都会育ちには衝撃。地魚の干物はうちの子供の好物。

真の公共事業とは、一時のカンフル剤であってはならない。恒久的に利益を生み、雇用を確保するものでなければならない。

  急場をしのぐ必要が生じることは、公共事業に限らずビジネスでは頻繁におきます。その場限り対応を繰り返して疲弊するか。対策を考える時に「長期的視野」の複眼を持って考えるか。後者が自分達を大いに助けるはず。

「う~ん。そう言われりゃそうかも知れんな。お前の言うように今の日本じゃ、すべての業種で派遣が大流行だ。俺も最近知ってびっくりしたんだが、ゴルフ場のキャディだって派遣だもんな。日によって業務量が違う職種や、単純労働、お天気商売なんて、皆派遣になっちまうだろうな」 「って、ことはだ。同じ広さ、同じクオリティの物件に住むなら、安いに越したことはねえ。そう考える人間が圧倒的多数を占める時代が来ると思わねえか」

  「プラチナタウン」が発行されたのが2008年。私のような団塊ジュニア世代が主人公達と同じ55才になるのが2028年ごろ。その頃には自動運転バスやリニアも営業開始して、距離の壁はさらに縮まるはず。一部の地方部に、新しい人口集積地が出来てもおかしくありません。

「場所がなあ……。やっぱ、都市部から地方っていうと、都落ちって感じが否めないっていうんだな」 「どうして都会で暮らしている人間は、揃いも揃って考えることが同じなのかな。この画一的思考回路、右へ倣えの行動様式が都市部への人口集中を生んで老後の暮らしを厳しいものにしてるってことに気がつかないのかね」

  距離の壁が縮まったとして、人が来るかどうかは魅力的な体験が出来るかどうか。一概に都市か地方かだけではないでしょうが、地域の特性や個々人のアイディアを活用して、資金的にも持続性のあるコンテンツを用意すること。その上で選んでもらえるに認知を高める、意識を変えるようにしていくことですね。

「私たちは組織の大きさに甘えて、多くのビジネスチャンスを逃してきたんじゃないかとね。時代の寵児となって莫大な富を築いた人間が続出したIT産業やブライダルビジネス。彼らが築いたビジネスモデルは、四井の資本力を以てすれば、もっと早く、かつ確実な方法でものにできたはずじゃありませんか。だけど実際は誰もそんな分野に目を向けなかった。もちろんアイデアとして考えた人間もいたかもしれない。しかし、組織に身を置く人間の性で、結局は失敗を恐れるか、あるいは小さな流れを本流に押し上げるには多大な労力と、時間がかかるといった理由で誰も手をつけなかった……そうじゃありませんか?」

  サラリーマンをしていると、上司や組織の期待に応えようと考えることが多く、自分が本当にやりたいことが何かを突き詰めて考えてこなかった気がします。やりたいことをシャープにして、とんがらせ、そこに労力を集中するとサラリーマンでも自分のやりたいことでビジネスチャンスをモノにできるのではないか。この一年、挑戦してみます。

「この地がいかに老後の生活を送る上で魅力に満ちあふれているのか、どんなパンフレットを作って、美辞麗句を並べ立てるより、体験に優るものはありませんからね」

  モノよりコトと言われて久しい。それではコトをどうやったら売れるか。小説では施設周辺の食やレジャーを体験する宿泊ツアーを企画。体験と顧客を結びつける仕組みを作ることが大事。

ツアーだけだとしても魅力的だし、実際に住もうという町を事前に体験できれば、移住への不安はかなりの部分解消できるだろうし、実感も湧くだろう。たとえ町が気に入らなかったとしても、ちょっとした旅行に出たと思えば、納得いくだろう

  地域の活性化は現在多くの人にとって関心事。サービスの認知を高めるためにも、サービスに必要なリソースを確保するためにも、メディアを上手く活用できれば。

「やはりこちらも入居者と同じように、メディアの力に頼るしかないでしょうね」  渡部は言った。 「メディアって……そんたに力があるもんだべが」 「以前にも申し上げましたが、今回の事業は社会の高齢化が急速に進む日本では、相当インパクトのあるものだと思います。永住型老人居住施設、町興しのモデルケースにもなるでしょうし、何よりも老後の過ごし方の概念を一変させることにもなると思います。もちろん、田舎に移れば都会に住むよりも生活コストは安いというのは誰もが知っていることです。ですが生活の質を落とさず、いや、むしろ向上させる。しかも民間と自治体が共同でこうした事業を行うというのは、たぶん初のケースだと思います。テレビ、新聞、雑誌。これから、あらゆるメディアが大きく取り上げることは間違いありません。そこで、同時に従業員の募集も行う―」

    ベストセラーとなった「未来の年表」でも人口減少ステージで持続的な社会を作るために、脱東京一極集中、中高年の地方都市移住を掲げています。都市部の大企業でスキルを身につけた中高年が柔軟な形で就労することは、ノウハウの欲しい地方の企業と双方にとってWin-Winとなる仕組みになると思います。

そこに週に二回程度、おいでいただいて働いていただければ、生え抜きの社員も大企業のノウハウを学ぶことができるでしょう。審査や法務に関する事柄は、最終決裁者である私にレポートが上がる前に、目を通していただき、問題点を本社の担当にフィードバックして貰う。こちらは書面でのやりとり、いわば添削ですから、メールや電話で業務をこなしていただく。重要案件であれば、本社から担当者をこちらに出向かせますから負担は小さいと思います。もっとも決算期には東京本社に出張してもらうことになるでしょうけど……。とにかく、私の目からしますと、ここはまさに宝の山なんです」 「なるほどねえ」 「もちろん、しかるべき報酬はお支払いしますよ。フルタイムというわけではありませんから、現役の頃の給料に比べれば、安いものでしょうけど、それでもちょっとした小遣いにはなると思いますがね」  悪い話ではないと思った。なるほど大企業の持っている仕事上のノウハウは、中小企業からすれば高坂の言うように、喉から手が出るほど欲しいものには違いない。それは高坂の会社だけではなく、近隣市町村に数多ある会社にも言えることだ。そして何よりも、移住してくる人間の人的リソースを再活用できるとなれば、会社経営については最高レベルにある知識を地場産業が労せずして手に入れるチャンスである。うまく人材斡旋の仕組みを造り上げることができたなら、地方産業の活性化、レベルアップにも繫がるだろう。

  年齢に応じた役割、楽しみ方を用意して効果を最大化する。示唆と夢に富み、今後挑戦していきたいと思います。

町は急速に活気を取り戻しつつあった。ここには都会の老人施設にありがちな、沈滞した空気はない。年寄りを集め、年齢に応じた生活の楽しみ方を提示すれば、絶大なるパワーを発揮するのだ。

 

プラチナタウン (祥伝社文庫)

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和僑 (祥伝社文庫)

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