29. 凡人のための地域再生入門 木下斉 <示唆に富む素晴らしい教科書>

  私は生まれと育ちが都市部で現在サラリーマンをしているので、登場人物達と境遇は違います。しかしながら妻の地元が魅力ある地方部で、地域再生に興味を持って読みました。筆者が同士達に共有したい、成功するために欠かせないロジックと、苦難に負けないために必要なエモーション、その両輪を伝えるべく、小説形式で地方での事業のリアルが描かれています。

  とにかく面白い。筆者の実体験をベースにしたであろうストーリーは現実的で、気弱な主人公が全くヒロイックでないのも相まって、すごく身近に感じられます。地域再生、地域における事業成功のために必要なことを理解するには、ストーリーをたどっていただくのが一番いいと思いますので、是非ご一読ください。

  小説としてもちゃんと面白く、多くのコラムや注が差し込まれていて、そこに書かれている情報をフックにさらに調べると、多くの新発見が得られるのも楽しかったです。地域再生という主題を越えて、ビジネスマンとして大切なことに気づかされることもありました。

  人生100年時代、一つの会社でサラリーをもらうだけでなく、地元や家族が属する地域に関心を寄せることは新しい発見を与えてくれると思います。いくつか自分が気になった箇所をご紹介させていただきます。

 

 例えば下記で紹介されているオガールプロジェクト。岩手県の地方部に、民間資本でセンスのある店を集積してこれだけの成果を上げているとは。

 財政難で公共施設整備が困難だった岩手県紫波町が、民間資金で様々な施設開発を行って成果をあげたオガールプロジェクト。しかし、当初はパブリックプライベートパートナーシップ、通称PPPと呼ばれるその開発手法そのものがよくわからないと、地元紙に「黒船来襲」と書かれるほどの猛バッシングを受けます。しかし開発が成果をあげ、年間のべ約100万人の集客、周辺住民の増加、4年連続の地価上昇、税収の増加といった結果を見て、当時の反対者も「もっと早くできればよかった」と口を揃えました。

 上記は筆者が事例を注釈で紹介している箇所なのですが、この事例が小説の中でで下記のような一節にも活かされています。サラリーマンでも、本社と現場、営業と他部署といった立場の違いから、自分の企画に「NO」と言われる、注文をつけられることはよくあります。一見自分にとって障害なんですが、ものの見方を変えて、すなわちそれをアドバイスに変えて対応すると、企画がより良くなる事ってあります。そのような捉え方をして自分に活かせるかは訓練だなと。

「そういえば勉強会のとき、岩手で産直施設をつくった人が、同じように産直だけだと変動の幅が大きすぎて、安定収入がないから融資を受けるのが難しかったと言ってたよね。そのときは、産直施設に地元の有力な肉屋と魚屋をテナントとして入れて安定して家賃収入が入るようにして、いい条件で融資を引き出したんだって。僕らも、何かそれをヒントにして考えたほうがいいかもしれない」

「金融審査を経て事業が強くなり、地域の力となることもあるのだ。」

 例えば下記注釈にある都市公園法改正。興味を持って活用事例をググってみてもあまり見つかりません。それをツイッターでつぶやいたら、この仕組みを活かすには、大阪城公園の例など、ある程度の規模が必要、というアドバイスをいただきました。公園という相乗効果が期待出来る価値があっても、その地域の中で人々に行きたい、体験したいと思わせるだけのエッジがないと当然人は集まりませんよね。そういう考え方はこの本の中でも繰り返されていたのですが再認識させてもらいました。

日本では戦後、公園は禁止事項ばかりで何もできない場所となってしまったが、明治時代には公園で事業が営まれるのは当たり前だった(日比谷公園にも松本楼というレストランが開園当初からある)。ニューヨークでは公園の一部での営業権を売却することで財源を確保し、中でもマディソン・スクエア・パークに出店したシェイクシャックという小さなハンバーガー店はいまや上場し、日本を含め世界各地に展開する企業へと成長するなど、新産業の拠点にさえなっている。しかし、日本では公園予算は削られるばかりだ。日本でも都市公園法が大きく改正され、新たな時代に対応した公園の再編成が求められている。

 下記のくだりでは、自分の恥ずかしい経験を思い出しまた。昔アメリカ出張からの帰国後に本部長にどうだったかを聞かれて「すごく勉強になりました」と答えたところ、「お前に勉強させるために高い出張費出しとんちゃうで!」とツッコまれ…

勉強会は、あくまで事業化プロセスの一部にすぎない。自己目的化して「勉強になった」「いい話を聞いた」などと言っているようではまったく意味がない。具体的に事業化しようとしている内容をもとに、必要な情報を複数回に分解し、それぞれ最適な人を呼び、聞いた内容を具体的なアクションに反映させること。実践してようやく学んでいる内容がわかることも多々ある。

自分の財布からお金を出さなければ、「やってもやらなくても自分に損害はほとんどない」と考える人がたくさんいる。タダだからと軽い気持ちで受講し、ためにならないと思ったら途中でやめてしまう。ときにやる気のある人がきたとしても、まわりはほとんどやる気のない暇な人ばかり。そして本気の人から離脱する。何も、法外な金額を払わせようというわけではない。フェアな対価をみなが出し合って勉強会を行えば予算など必要ないし、その対価を支払った分、事業化して元をとろうとするからこそ、物事はカタチになるのだ。 

 仕事における経験を、いかに商売、売上につなげるか。大きな組織にいると一日中会議に追われたりしますが、自分も他のメンバーもどれだけ本気で意味のある時間にするか。手ぶらで帰ることなく、常に何かやる。肝に銘じたいと思います。

  すぐに地域再生に関わるつもりではないのですが、時々読み返し、自分の商売人としての力を会社の中でも磨いていきます。

 

地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門

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